【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜

黒瀬尚side | ずっと願っていた"本当"

有紀が、外回りで社外に出た後だった。




「──なあ、ちょっと話ある」





フロアに戻ろうとしたとき、不意に背後から声をかけられた。


振り返ると、高峰だった。


目が合った瞬間、空気の温度が変わるのを感じる。


いつもの柔らかさはなかった。



声は低く、視線は真っ直ぐで、冗談の余地が一切ない。



──これは、ただ事じゃない。


「……なんだよ」

「少しでいい。空いてる会議室、あるだろ」


そのまま言葉を挟む隙もなく、歩き出される。


ドアが閉まる音がやけに重く響いた。

 




ドアが閉まると、すぐに言葉が飛んできた。
 
「──佐伯と、お前。どういう関係なんだ」
 
唐突すぎる問いに、言葉が詰まる。
けれど高峰の目は一切揺れていなかった。
 

「……どうって」
 
「付き合ってる?」


一瞬、息が詰まった。
 


(……付き合ってる、とは……言えない)


“好き”だとも、“付き合おう”とも、誰も言っていない。


ただ、互いの部屋を行き来して、夜を共にしている。


私物も置き合っている。


けれど、それだけだ。



———名前のない、曖昧な関係。



「……付き合ってねぇよ」



喉の奥から搾り出すように、そう答えた瞬間、高峰の顔がわずかに強張った。


「──そうかよ」

 
低く落ちたその声に、怒りの色が滲んでいた。

 
「給湯室で佐伯が泣いてた」
 
「……は?」
 
「俺の前で。こらえきれずに、ぽろぽろ泣いてた」



一気に心臓が軋む。



「……なんで……」
 

「理由は聞いてない。でも、あれはお前のことで泣いてた」


「……そんな、まさか……どういう──」


「どういうもなにも、そういうことだよ。……ちゃんと、見てなかったの?」



返されたその一言が、深く刺さる。



(──いつから、有紀は泣くことすら隠せるようになったんだ)


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