【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜



 

「——好きだ」

 

「……っ」

 

「佐伯有紀が、好きだ」

 

心臓が跳ねた。


思わず、有紀は黒瀬を見上げる。


「ずっと、ごまかしてた。
気持ちを伝えないまま、身体だけ繋ぎ止めて、ずるいことしてた。自分でもわかってた」

「……」

「ほんとは、誰にも触れてほしくなかった。
お前の全部、俺だけのもんにしたかった」


震えていたのは、彼の声だけじゃなかった。
彼の指先も、肩にかける力も──



言葉のひとつひとつが、有紀の胸を打つ。


ずっと欲しかったその“本音”が、まっすぐに響いてくる。


 
「だから、頼むから……離れるなんて言わないで。俺から、離れないで」
 


その声に、有紀の頬を、一筋の涙が伝う。


どれだけ抱きしめられても、


何度キスを交わしても、


その“好き”が聞けなかったから、不安だった。


だから、今……



ようやく、この一言で、報われた。



ずっと、ずっと……この一言を待っていた。

 

「……っ、遅いよ、ばか……」



こぼれた言葉に、黒瀬の腕の力が、ほんの少しだけ緩んだ。


でも、そのあとすぐに、もっと深く、強く、有紀を抱きしめ直した。



そして、そっと額を有紀の頭に預ける。



「……なあ、有紀は、俺のことどう思ってる…?」

 

その声は、震えていた。


怖さを隠せない、真剣な問いだった。

 

有紀は目を閉じ、深く息を吸い込むと、微笑んだ。

 

「好きだよ。黒瀬くんが……大好き」

 
目が合った瞬間、黒瀬の瞳が揺れた。


その奥に、ずっと塞いでいた何かが、解けていくのがわかった。


彼の手が、有紀の頬にそっと触れる。
そして、今度は真っ直ぐな声音で──



「……俺と、付き合ってほしい」


その言葉が、有紀の胸を深く貫いた。


ようやく、この関係に“名前”が与えられた。


有紀は、静かにうなずいた。


それが、ずっと欲しかったすべてだった。


曖昧さに沈んでいたふたりが、はじめて“好き”を認め合った夜。


その温度が、胸の奥でじんわり灯っていった。




 

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