【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜

一番深く繋がれた夜

黒瀬の部屋の明かりは落ち、
静かな夜が、ふたりだけを包んでいた。


いつもなら──きっと、抱き合って、肌を重ねて。


そうすることでしか、確かめられなかった。


“これってなんだろう”の答えを、曖昧に埋めるために、ずっと触れていた。



でも、今夜は違う。


黒瀬の腕の中にいるだけで、
それがすべての答えだと、ようやく思えた。


「……眠れそう?」


そう聞く黒瀬の声は、低くて、あたたかかった。


「うん。すごく、安心する」



有紀がそう答えると、黒瀬はすっと抱きしめる腕を強めた。



「そっか。……よかった」



ただ、それだけの会話で、胸の奥が満たされていく。


何も求められなくても、


求めなくても、


こうして隣にいてくれることが、こんなにも安らぐなんて。


「……なあ、有紀」


不意に名前を呼ばれて、そっと顔を上げる。


目が合う。



月明かりが、黒瀬の目元をやわらかく照らしていた。


「今日、お前が“終わりにしよう”って言ったとき、正直、泣きそうだった」


「……ええ?」



普段の自信満々な彼から発せられた信じられない言葉に、


思わず笑ってしまいそうになるのを、なんとかこらえる。


「俺、ほんとに、終わったと思った。
でも……踏み出せてよかった。
お前にちゃんと伝えられて、ほんとによかった」


“好きだ”って言葉。


たった一言に、どれだけの意味が詰まっていたのか。


それをいちばん知っているのは、自分たちだと思う。

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