【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
“好き”が降り注ぐ毎日
「……ただいま」
玄関のドアが静かに閉まる音がして、リビングに通じる廊下をゆっくりと足音が近づいてくる。
シャツの第一ボタンを外したまま、黒瀬が姿を見せた。
有紀はソファの上で資料を閉じ、リビングの明かりを落としかけていたところだった。
ふっと顔を上げると、彼が柔らかく笑う。
「おかえり。お疲れさま」
「ただいま。……帰ってきて灯りがついてるの、やっぱ落ち着くな。俺の部屋に有紀がいるって、いいな」
“俺の部屋に”という言葉があまりに自然で、思わず有紀もくすりと笑ってしまう。
この部屋——黒瀬のマンション。
数日前、唐突に彼から合鍵を渡された日のことを、ふと思い出す。
「……これ。俺がいないときでも、自由に入っていいから」
その日鍵を受け取った瞬間から、この部屋は“ふたりの場所”になった。
仕事終わりに自然と帰ってくるのは、黒瀬の部屋——でももう、それは彼だけの空間じゃない。
今では、ふたりの時間が当たり前に流れる、そんな帰る場所になっていた。
「ごはん温めるね。もうお腹すいて──」
言い終える前に、背後から腕が伸びて、腰をぐいっと引き寄せられる。
「ちょ、くろせく──」
「いいから。ちょっとこっち来て」
そのままソファに座った黒瀬は、有紀を正面から抱きしめた。
背中にまわった腕の力は、仕事中のあの冷静さとは真逆で、どこまでも甘く、執着じみていた。