【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「……お前、帰らないの?」


不意に声をかけたとき、有紀はビクッと肩を揺らした。


「あ……黒瀬くん…だったよね。忘れ物?」


「うん。にしても、お前、今の時間まで何してんの」


「ちょっと、色々たまってて……」


たまってる、じゃねえだろ。押し付けられてる、だよ。



でも本人は気づいてないみたいで、どこか困ったように笑っていた。



真面目で、断れないタイプ。


たぶん、頼まれたら全部やっちゃうやつ。



それが偉いわけじゃないってこと、多分こいつは知らない。
 

「なあ、これ、先輩の資料じゃない?」


「え、あ……はい、そうなんですけど……確認だけで、たいしたことじゃないから……」


「たいしたことじゃないのに、この量?」


「あ、いや、でも私、要領悪いから時間かかっちゃって……」


「……あと、何すりゃいいの?」


「え…?」


思わず、そう言ってしまっていた。



隣のデスクの椅子を借りて、ドカっと座り、彼女と同じパソコンを覗きこむ。





———そのとき、ふわりと香った。


香水のきつさとはまったく違う、ほのかに石鹸みたいな匂い。


どこか懐かしいような、安心するような香り。 



近づいたからこそわかったその匂いに、なぜか胸の奥が少しざわついた。




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