【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「え、いいよ!黒瀬くん、忘れ物取りに来ただけでしょ?帰って」


「このままだと、お前、ずっと残って朝になってそーだし」


「な…!さすがに、そこまで要領悪くないですけど!」



俺の冗談に、心外だと、顔に書いてあった。


その素直な反応が面白くて、思わず口元が緩んだ。


……変な話、こういうタイプは新鮮だった。
 


モテるって自覚はある。


それを隠す気も、特にない。






けど、こっちの様子を探るような視線。


媚びた笑い方や、距離の詰め方。


そういうのには、もうとっくに慣れてるし、ちょっとした警戒心すらある。


でも、こいつには──そういうのが、一切なかった。


俺を誰かとして特別視するわけでもなく、変に気を使うわけでもなく、ただ、目の前の仕事に向き合っていた。





「……お前、さ。損してるよ」



思わず出た言葉に、有紀は「え?」と首をかしげるだけだった。



その表情に、何も伝わってないんだろうなって思ったら、ちょっとだけ笑えてきた。


 
(……こういうやつも、いるんだな)



この日以来、ふとした瞬間に視界の端に有紀が入りこむようになった。 



同じ空間にいるだけで、不思議と気配を探してしまう。



あのとき香った匂いも、何故かずっと、記憶に残っていた。



自分でも理由はわからなかったけど、
それはきっと──この夜が、始まりだった。




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