【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
給湯室の前を通りかかったとき、ふたりの声が聞こえた。
──高峰と、有紀。
「最近、朝ちょっと暑くなったよね」
「うん、ほんと。そのおかげで、電車の冷房、やっとちょうどよくなったかも」
「わかる。たまに冷蔵庫?ってレベルで寒い車両あるよな」
「あるある。しかも、窓際に座ると余計寒いやつ〜」
有紀の声が、少しだけ弾んでいた。
いつもの落ち着いたトーンとは違って、どこか軽やかで楽しげな響き。
紙コップを両手で持ちながら、高峰の言葉に何度もうなずいて──
ふっと、顔を見上げて目を細め、ふわっと笑った。
その笑い方が、あまりに無防備だった。
それに、やけに、距離が近い。冗談にくすっと肩を揺らして、軽く触れて、すぐ離す。
自然な仕草。けれど、妙に馴染んで見えた。
(……あれ、今、肩に触れたか?)
普段の有紀なら、そういう距離感は作らないタイプだって知ってる。
でも──高峰には違った。
話すとき、少しだけ身体が彼の方へ傾いている。
無意識のそれが、“もっと話していたい”という気持ちの表れに見えた。
(……やっぱり、そうなんだ)
高峰に向ける目線、笑い方、仕草──
全部が、俺の知ってる有紀と、どこか違っていた。
(あいつには、そうやって笑うのかよ)
気づけば、視界の奥がチリついていた。
胸のあたりがざわついて、じっと見ていられなかった。
理由なんて、言わなくても分かってる。
──ムカついてるんだ、俺は。
誰に?
あいつにも、有紀にも──どっちにも。