【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
◇◆





「佐伯、それ……分厚すぎん? 辞書持ち歩いてんのかと思った」


「え、そんなに分厚いかな?普通の資料だよ?」


「いやいや、見ただけで肩凝りそう。……肩たたき券いる?」


「なにその怪しい券」


「今なら初回限定、1枚プレゼントしますけど?」


「いや、いらないから!」


「遠慮しなくていいのに〜。使用期限、今日中ですけど?」


「だから使わないって!」



そう言って、呆れたように笑って肩を揺らす有紀。


昼前、コピー機の前でばったり会ったときの、なんてことない軽口。



ただ、それだけ。ほんの数秒の会話。



──けど、本当は。



会いたくて、話したくて、近づく理由が欲しいだけだった。



(……俺、ガキかよ)



頭の中では何度も自分にツッコんでる。



「ちゃんと話せ」「もっとまともな言葉を選べ」って。



たとえば「最近、疲れてない?」とか。


「無理してない?」とか。


本当は気にしてるし、誰よりも心配もしてる。





だけど、口を開くと──いつもこんなふざけた言い方になる。



……怖いのかもしれない。
ちゃんと伝えたら、終わる気がして。



有紀みたいな真面目な子は──多分、
その気がなければ、ちゃんと「ないです」って言うタイプだ。



変に濁したり、期待だけ持たせたりしない。


好意には、ちゃんと向き合おうとする人。



……だからこそ、踏み出せない。
この関係が壊れるのが、怖くて。



ほんの少し近づけた気がするだけで、
もう、それだけで十分みたいな顔をして──
今日も、冗談でごまかす。




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