【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「……ていうかさ。あんま無理すんなよ。佐伯って、わりと抱え込みがちだから」
「え……なに。急に優しいんだけど」
「いや、最近ずっと忙しそうだったから。目の下、クマできてんぞ」
「え、まじで……?」
「……また朝方まで資料と睨めっこしてた?」
「ちょっ…またってなに!さすがに朝まではないから!」
笑いながら、少しだけ眉を寄せた有紀の表情に、思わず口元が緩む。
──けど、次の瞬間には、また自己嫌悪が追いかけてくる。
(……ほんと、なにやってんだ俺)
好きだって言えないくせに、気を引きたい気持ちばっかり先走って。
まともに“同僚”すら演じきれてない。
もっと自然に振る舞えたらいいのに。
なのに、こうやってちょっかい出して、
笑わせて、困らせて、
ほんの一瞬でも「俺の方を見て」って、
そんな幼稚なことばっかりしてる。
給湯室で高峰と笑い合ってた、あの有紀の顔が、何度も脳裏をよぎる。
──あんな表情、俺には向けてくれない。
それでも…
「……佐伯、昼メシ、もう食った?」
「ううん。これから行こうと思ってたけど、ちょっとだけ時間ずれそうで」
「じゃあ、戻るとき声かけて。待ってるから」
「え……一緒にってこと?」
「うん。ダメ?」
「……いいけど。黒瀬くんがお昼誘うの、ちょっと意外」
「たまには気まぐれも出すタイプなんで」
そう言って、彼女より少し先に歩き出す。
背中の向こうで、わずかに聞こえる足音。
その音を聞きながら──心臓の鼓動が、ばかみたいに早くなる。
(……小学生か、俺)
好きな子の気を引きたくて、
話したくて、そばにいたくて、
回りくどく言い訳しながら、結局はまっすぐ向かっていってる。
何年経っても、本質って意外と変わらない。
むしろ、変わらない自分に気づいて、苦笑した。