【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜




夜。
 

黒瀬のマンションのキッチンに、包丁のリズムとフライパンの小気味よい音が重なる。


黒瀬は片手でフライパンをあおり、野菜を香ばしく炒めていく。


いい香りがふわりと広がり、火加減や手さばきのスマートさに、隣でサラダを盛り付けていた有紀はつい見惚れてしまう。


「ねえ、黒瀬くん……」


おずおずと声をかけると、黒瀬はちらりと視線だけを向けてきた。


「ん、なに?」


「……美紅ちゃんにね、私達付き合ってること、バレた」


「……え?」


黒瀬の手が止まる。驚いた顔で有紀を見た。


「まじか……なんで?」


「黒瀬くんが、資料見るフリして、私ばっか見てるからって」


視線を落としながら言うと、黒瀬の眉がわずかに跳ねる。


「え、そんなに見てねーし……いや……見てんのかも……」


「ぷっ」


珍しく、曖昧に言い淀むのがおかしくて、有紀が思わず笑ってしまう。


「私も気づかなかったけど、美紅ちゃん、人間観察が趣味で、すぐわかっちゃったみたい」


「……いや、鋭すぎだろ」


黒瀬はため息をつき、フライパンを傾けながら苦笑した。


「あー…、どうりで最近、田中、めっちゃニヤニヤしながら見てくんなって思ったわ」


「そうなの?」


「まじまじ。 "何か用?"って聞いても、"何でもないでーす"って逃げてくの。あれ、そういうことか」


「ふふっ。想像つく〜」



サラダをテーブルに運びながら、有紀は肩を揺らす。


「で、今日色々聞かれちゃったんだけどね。最後には"全力で応援します!"って言ってくれたよ」

 
「へぇ…。ありがてー限りですね」



わざとらしく棒読みで返す黒瀬に、有紀が思わず吹き出す。


 楽しそうに笑う有紀の横顔に、黒瀬はふっと口元を緩めた。


かと、思えば、何やら思いついたようにニヤリと笑む。


「もう、いっそさ。有紀は俺の、って言いふらそうかな」


「えっ……」


 不意に落とされた低い声。冗談めいているのに、どこか本気を含んだ響き。


「悪い虫、寄ってこねーように」


 フライパンを火からおろしながら、真っ直ぐな目を向けられ、有紀の胸がドキリと跳ねる。


「い、いや……でも、それだと仕事しにくくなるかも、だから……」



慌てて言い返しすと、黒瀬は小さく「ふーん」と呟き、お皿に盛り付け始めた。




その自然な様子に目を奪われながら、自分の鼓動の音がいつも以上に大きく聞こえる気がした。
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