【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
黒瀬にしばらく抱きしめられたまま、胸がいっぱいで涙ぐむ。
けれど、ふいに彼の腕が離れた。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと黒瀬は立ち上がり、リビングの隅にある棚へ向かう。
しゃがみこんで、迷いなく引き出しを開ける。
(……え? なに?)
有紀が瞬きを繰り返している間に、黒瀬の手に収まったのは――
深い紺色の小さな箱だった。
見慣れない…けれど絶対に特別なものだとわかる。
黒瀬はそれを持って戻り、有紀の目の前で静かに腰を下ろした。
「……えっ、それ……」
「婚約指輪」
当たり前みたいに告げながら、黒瀬はパチンと箱を開ける。
中に収められていたのは、眩い光を放つダイヤの指輪。
シンプルでありながら洗練されていて、確かな存在感を持っている。
それは、まるで彼の“本気の覚悟”そのもののように。
「えっ……な、なんで……? そんな…いつの間に……」
有紀は声を震わせた。
結婚しよう、という言葉は、雰囲気に流された勢い半分のものかと思っていたのに。
こんな立派な指輪を前にしたら――違うとすぐにわかってしまう。
黒瀬は小さく笑って、けれど真剣な瞳で見つめてきた。
「実はさ……有紀と付き合いはじめて…この部屋の合鍵渡した頃から、もう用意してた」
「……っ!そんな前から…っ」
「最初は、ただ一緒にいられるだけで十分だって思ってた。
でもさ、毎日過ごすたびに、『ずっと一緒にいたい』って気持ちがどんどん強くなって……。気づいたら、もう買ってた」
その告白に、有紀の胸がまた大きく波打つ。
「でも……これ、渡すの早すぎて引かれたら嫌だな、とか。けど早く渡してぇな……で、ずっと悶々としてた」
言いながら黒瀬は、少し照れくさそうに鼻をかいた。
不器用なのに真っ直ぐで、どうしようもなく彼らしい。
「……有紀。左手、貸して」
促され、震える指先で手を差し出す。
黒瀬がそっと彼女の薬指に指輪を通した瞬間――
きらめく光が、有紀の指先で静かに輝いた。
「……っ」
胸の奥が熱くなって、堪えていた涙が一気に溢れた。
黒瀬はそんな私に、フッと目を細めて笑いながら、有紀の手を包み込み、低く囁いた。
「これで、もう逃げられねぇからな」
からかうような言葉なのに、その声には揺るぎない愛情と決意が宿っていた。
薬指に光る指輪を見つめながら、有紀は涙をぬぐうことも忘れて、小さく笑った。