【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
もちろん、有紀は、自分の仕事も手を抜かない。


クライアント先の担当者からも、すっかり信頼されていた。


彼女の営業は、飾り気がなく、真っ直ぐで、ひたむき。


相手の懐に自然と入り込んでいくのは計算でも駆け引きでもなく、ただ“より良い提案をしたい”という純粋な思いから出るものだった。


だからこそ、相手にきちんと伝わり、響く。


そんな姿を見ていると――あぁ、出会った頃から何も変わってないな、と黒瀬は思う。


必死で、真面目で、不器用なくらい真っ直ぐで。


そのひたむきさに、また胸を掴まれる。


「……ほんと、どれだけ惚れ直させる気だよ」


心の中で呟いた言葉は、有紀には聞こえていない。


けれど黒瀬は、こみ上げる愛しさを抑えきれず、そっと視線を逸らした。





「黒瀬くん」


不意に有紀が話しかけてきた。


「この部分、クライアントに見せるときは比較データも添えた方がいいと思うんだけど……どうかな?」


資料を片手に、俺に身を寄せる。


それだけで、心臓が少し跳ねる。


「……そうだな。確かにその方が説得力出る。」


「うん。了解」


短いやり取り。
 

けれど、視線が絡んだ瞬間、有紀がふっと目を細めて、笑った。


(……やべぇ)


その笑顔を見た途端、ふと頭をよぎるのは昨夜の光景。


シーツに乱れた髪を散らし、潤んだ瞳で俺の名前を呼んでいた有紀。


熱に浮かされたみたいに抱き合って、細い身体を必死に受け止めた時間。


(……っ、いやいやいや。勤務中だろ俺) 


慌てて視線を資料に戻しながら、苦笑が漏れる。


ほんと重症だ。


オフィスで、メンバーの前で、仕事の顔してるはずの有紀に――



平然を装いながら、心の奥では恋人としての顔を重ねてしまってる。


(はぁ……どうしようもなく好き。……困ったもんだな、ほんと)



この気持ちは、どうしても抑えられなかった。
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