【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
その夜。


仕事を終え、今日は一緒に有紀の部屋に帰ってきた。


シャワーを浴びたあと、ソファに腰を下ろし、缶ビールをプシュッと開ける。


ふと目をやると――


Tシャツに短パン姿の有紀が、タオルで濡れた髪をざっと拭きながら冷蔵庫を覗き込んでいた。


ついさっきまでオフィスでキリッと仕事をしていた彼女と同一人物とは思えない。


素足で床を歩く無防備な仕草も、結んだ髪からこぼれる水滴も、全部、俺だけが知っている“家の顔”だ。


(……あぁ、やべぇ)


気づいた瞬間、心臓が跳ねる。


仕事してる姿に惚れ直すことも多いけど……こうして自然体で俺の前にいる姿を見せられると、どうしようもなく胸を撃ち抜かれる。


「黒瀬くんも、明日お弁当いる?」

「ん……ああ」

「じゃあ、私作るね?」


振り返って、当たり前みたいに微笑みながらそう言う。


ただそれだけの一言が、どうしてこんなに胸を熱くさせるんだろう。


有紀がここにいるだけで、生活が柔らかく、温かく変わっていく。


一緒にいるのが楽しくて、安心できて――


(……はぁ、まじで好き。ほんと好き)


今日だけで何度思ったかわからない言葉が、また心の中に溢れる。


もう、抑えきれないくらいに。


冷蔵庫の前で献立を考えていた有紀が、ふと思い出したかのようにこっちを見てくすくすと笑った。


「……なんだよ?」


「黒瀬くん、ピーマン苦手だったよね? お弁当にチンジャオロース入れようか迷って」


からかうような声音に、思わず眉を寄せる。


「別に……食えるし」


「ふふ。そう? じゃあ、入れていい?」


「……大丈夫。……いや、やっぱ抜いといて」



素直に言い直すと、有紀は吹き出して肩を揺らし、楽しそうに笑った。


その笑顔が可愛くて、愛おしくて――


(……ずっと、こんな時間が続けばいいのに)


胸の奥で、切実にそう願わずにはいられなかった。



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