【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
付き合って一ヶ月なんて、普通ならまだ“お試し”みたいな時期だろう。


けど、俺はもうすでに願ってしまっていた。



"佐伯有紀と一緒に生きていく未来"を。


ある日の帰り道、ふと視線を奪われたジュエリーショップのショーケース。


光を浴びて輝く指輪のひとつひとつが、有紀の姿に重なる。


(……まだ早ぇのかもしれねぇけど。俺は、もう——)



気づけば、店の扉を開けていた。


ショーケースの前に立ち、指輪を選ぶ自分がいた。


 



———そして迎えた次の休日。



有紀を家まで送った帰り際、ポケットの中で小さな金属の感触を確かめる。



ずっとタイミングを窺っていた“合鍵”。



「……有紀」


「ん?」


玄関前で振り返った有紀の目を見つめ、俺は掌を開いた。


そこにあるのは、銀色に光るキー。


「これ。……俺んちの鍵」


有紀の瞳が大きく揺れる。


「えっ……」


驚きと、戸惑いと、抑えきれない嬉しさが入り混じった声。


頬が真っ赤に染まっていくのを、俺は逸らさず見つめた。


「……俺がいないときでも、自由に入っていいから」


有紀は小さく息をのむと、両手で鍵を受け取り、大切そうにぎゅっと握りしめた。


そして、はにかむように笑う。


「……うん。黒瀬くん、ありがと」


その笑顔に、胸が詰まった。





――本当は指輪も、今すぐ渡してぇ。



けど、鞄の奥の小さな箱に触れるだけで、理性が踏みとどまる。



まだ一ヶ月。



俺の気持ちはかなり前のめりすぎる自覚があった。



有紀が同じ気持ちに辿りつくまで、焦らせることなんてしたくない。



だから今は、この合鍵で十分だ。



(……でも、いずれは必ず)



遠くない未来。



その箱を開く日が来たとき――
 


俺は有紀に一生を誓う。
 


その時、迷いなく頷いてもらえるように。
 


俺とずっと一緒にいたいって思ってもらえるように。
  


有紀を、大切にしたい。
 

いや、絶対、大切にする。
 




胸の奥で、固く固く誓った。






(fin.)
< 167 / 172 >

この作品をシェア

pagetop