【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜



「……夕飯、あっためよっか。一緒に食べよう」


高峰の声は、いつもの穏やかさはそのままに、どこか優しさを滲ませていた。


「えっ? 待っててくれたの? 遅くなるから、先に食べててよかったのに……ごめん、お腹すいてたよね?」


慌てて有紀がそう言うと、高峰はほんの少し首を振って、やわらかく微笑んだ。


「ううん。俺が有紀と食べたいなって、勝手に待ってただけだから」


その言葉が、ふわりと胸に降りてくる。
声の温度も、目線も、何もかもが心地よくて。
有紀は自然と、ふっと笑みをこぼしていた。


「……ほんとに、高峰くんって、そういうとこ…」

「ん?」

「なんでもない。……ありがと」


小さくそう返して、顔を上げた瞬間だった。



目が合った。

ほんの数十センチ先。
その視線の深さに、一瞬、呼吸が止まる。


灯りを落とした静かな部屋。


耳に届くのは、ふたりの鼓動の気配だけ。


距離が、近い。
けれど、不思議と居心地は悪くなかった。
むしろ、言葉にできない安心感に包まれていて。


視線が、自然に絡まる。
それをほどくこともできずに、ただじっと見つめ合ったまま──
気づけば、引き寄せられるように顔が近づいていた。


どちらからともなく、唇がふれる。


そっと、やさしく。触れるだけのキス。



息を呑むような静けさの中で、それだけがすべてだった。


「……有紀」


唇が離れたあと、そっと名前を呼ばれる。
低くて、やわらかくて、胸の奥に響く声だった。


その声に、思わずまばたきをする。


──気づけば、背中に高峰の腕がまわっていた。


驚く間もなく、そのままゆっくりと体が傾いて、ふたりの体がソファに沈んでいく。

視界がふわりと揺れた。クッションに背中が触れ、視界が静かに高峰に覆われる。


「高峰くん…」

「…うん」


返事はそれだけ。けれど、もう言葉はいらなかった。


顔が近づいて、息が重なる。
指先が頬に触れ、髪をやさしく撫でながら、唇が重ねられた。


始めは浅くて、やさしい、確かめるようなキスだった。


けれどすぐに、少しずつ、熱が混ざる。
重ねるたびに深く、呼吸が絡まり、
有紀の吐息がほんのり震える。


「……んっ……」


抑えきれずもれた有紀の声に、高峰の動きがわずかに止まる。
唇が離れても、呼吸はまだすぐそば。


お互いの温度を感じながら、瞳が重なった。


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