恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜


昼休憩が終わり、午後の会議資料を探しに資料室に立ち寄った。


誰もいない静かな空間。紙の擦れる音だけが耳に心地よく響く。


ファイルを抱えてしゃがんだ瞬間、扉の開く音がした。


「佐伯」


振り向くと、そこにいたのは黒瀬くんだった。


「……黒瀬くん?」


咄嗟に立ち上がった拍子に、ファイルを一冊落としてしまう。


「あ、ごめ──」

「ほら、動揺しすぎ」


軽く笑いながら近づいてファイルを拾ってくれる黒瀬くん。


「そんなバタバタしてたら、すぐバレんぞ?」

「……な、なにがっ」

「“俺と何かあった感”、隠すの下手すぎ。バレバレ」

「~~っ!」


彼の目が、いたずらっぽく光る。


「首元は、ちゃんと隠してんのな」


「っ……気にしてたんだ」


「まぁな。バレたら面倒くさそうだし」


「……面倒って、それ、つけたの黒瀬くんでしょ……」


「たしかに」


あくまで軽く、余裕たっぷりに言ってくるけど──


そのやりとり一つひとつが、じわじわと胸に刺さる。



(ずるい……。何も変わらないふりをするくせに、こうやって、私だけ……)
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