恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「おはよ、佐伯」


ふいに、彼の視線がこちらをかすめ、何気ない声が届く。


「っ……お、おはよう」


(なんで……そんな普通なの……!?)



ドキドキしていた自分が滑稽に思えて、肩が落ちる。


黒瀬くんにとっては、あんなこと、たいした意味じゃなかったのかも──


そう思いながら、自分のデスクに荷物を置くと、背後から別の声がした。


「佐伯、おはよう。……飲み会の後、大丈夫だった?」



高峰くんだ。


いつもの優しい顔で、自然なトーンだったけれど、その言葉に私は思わず息を詰めた。


「えっ……? あ、うん。だいじょうぶ、だったよ……?」


頬がかすかに引きつるのを自分でも感じる。


できるだけ自然に振る舞ったつもりだけど、内心はパニック寸前。



「黒瀬が送ってくって言ってたから、ちゃんと家まで着いたのかなって思って」


「う、うん。ちゃんと……家、まで……」



顔が熱くなるのを必死に隠して、私は曖昧に笑った。


高峰くんは、それ以上は何も言わずに軽く頷いたけれど、どこか表情が読めなかった。


(……まさか、気づいてないよね?)



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