恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
気づけば、言葉が口をついて出ていた。
「……なんで、黒瀬くんはそんなに平然としてるの?」
彼は少しだけ目を細めて、ふっと笑った。
「さあ。そう見えるのは、隠すのが得意だからじゃね?」
「……え」
「慣れてるんじゃなくて、見せないようにしてるだけ。──お前と違って」
にやっと笑って、いたずらっぽく視線を重ねてくる。
その一言に、心が揺れる音が聞こえた気がした。
「……でもさ」
不意に、声のトーンが少しだけ低くなる。
「お前が俺を意識して、焦ってんの見るの……悪くない」
(やだ……そんな顔、そんな声……)
耳が赤くなるのを自覚したその瞬間──
「……あれ、ふたりとも?」
背後から、聞き慣れた声がした。
「──高峰、くん……」
資料室の入り口。
いつからそこにいたのか、高峰くんがこちらを見ていた。
「課長が佐伯のこと探してたよ。会議の資料の件で」
「……あ、ありがとうっ!」
高峰は、いつも通りの穏やかな声で伝えてくる。
(今の会話、聞かれてない…?)
ホッの安堵しながら、資料を胸に抱えて、私は早足でその場を離れる。
けれど、すれ違った瞬間、高峰くんの視線が、黒瀬くんに一瞬だけ鋭く向いた気がした。
(──気のせい、だよね?)
いつもと違う高峰の表情が、横目にうつり、走り出したくなる気持ちを必死で抑えながら、私はフロアへ戻る。
ざわめく心を抱えたまま。