恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
(……なんだ、それ)
耐えきれず、ドアを押し開けた。
「……あれ、ふたりとも?」
佐伯がビクリと肩を跳ねさせ、こちらを見た。
ファイルを胸に抱いて、困ったような顔で視線を逸らす。
「課長が佐伯のこと探してたよ。会議の資料の件で」
「あ、ありがとうっ」
佐伯は小さく声を返すと、そのまま逃げるように資料室を出ていった。
そのときだった。
揺れた髪の間から、シャツの襟が少しずれていた。
そこに、うっすらと浮かぶ
──キスマーク。
……息が詰まった。
(……まさか)
視線を向けると、黒瀬はこちらを見返していた。
いつものように飄々とした顔で、なんの動揺も見せずに。
まるで、"見せてやった"とでも言いたげな、余裕のある目をして、フッと笑って資料室を出て行った。