恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
黒瀬は、いつも軽く笑って、誰とでも距離を縮めて、
気づけば相手の懐に入り込んでいる。



そのくせ、自分の本心だけは決して見せない。



いつだって、ふざけたような顔で大事なものを持っていく。


(佐伯も……その中にいたんだ)



俺は拳を握りながら、棚の資料を取る。


全部、繋がった。


さっきの会話も、佐伯の揺れた声も、首筋の痕も。



悔しくて、自分が情けなかった。



彼女が自分を特別に見てくれていた時期があったことにも──ちゃんと気づいていたのに。



けど、向き合わなかった。


いや、向き合えなかった。



(……元カノのこと、忘れられない俺なんかが、彼女の気持ちに応える資格なんてないと思ってた)

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