恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
*
オフィスを出ると、夜風が頬をなでていった。
仕事の熱がふっと抜けていくみたいで、なんとなく、歩く足もゆるやかになる。
駅の改札で合流した黒瀬くんは、ネクタイを緩めながら、いつもどおりの軽い口調で言った。
「なんか食いたいもんある?」
「……うーん。とくにこだわりはないかな」
「そっか。じゃあ、駅近くのイタリアンとかどう? 雰囲気はまあまあで、味は当たり」
「……グルメか」
「こう見えて、店探しは得意なんで」
歩幅を合わせて並んで歩く。
この距離にも、少しずつ慣れてきた。
──けれど、それがいいことなのかどうか、わからない。
慣れてしまえば、また何かを期待してしまいそうな自分が、ちょっと怖かった。