恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
静かな部屋に、ふたり分の呼吸だけが微かに響く。
その沈黙を破ったのは、高峰だった。
「——ねぇ、佐伯。寝た?」
「ふぇっ!?」
反射的に変な声を出してしまい、思わず布団を握りしめる。
背中越しに、くすくすと柔らかく笑う声が聞こえる。
(あ、この感じ……懐かしい)
優しくて、温かい。
彼のそういう距離感が好きだった。
でも──黒瀬と関係を持ってから、どこか距離を取ってしまっていたのも事実だ。
ふと、布団が肩にかけられた。
「あっ……」
「ごめん。寒くない?俺、半分で大丈夫だから」
(……ずるいな、こういう優しさ)
高峰くんの手が、布団越しに少しだけ私の指先に触れる。
思わず分かりやすく、ピクッと反応した。
「佐伯、この出張が終わったら……デートしてもらえないかな」
少しの間を置いて、彼は静かに言った。
いつもの柔らかい口調なのに、どこか真剣な響きがある。
「へ……?」
「さっきの居酒屋で言ったこと、本気だから。……改めて伝えようと思ってたけど、待てなかった。
……俺、自分が思ってたより、余裕ない」
ふいに向けられた言葉に、胸が詰まった。
言葉に詰まりながらも、思い出すのは──
《……軽かったら、わざわざこんなふうに誘ったりしねぇよ》
出張前、黒瀬が静かに言ったあの夜のひとこと。
それだけなのに、ずっと胸の奥でこだましている。
どうしても、あの顔が頭に浮かんでしまう。