恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「あの、わたし──」
言いかけたとき、彼の声がかぶさる。
「……黒瀬のこと、好き?」
唐突な問いかけに、心臓が跳ねた。
答えが出せないまま、沈黙が落ちる。
けれど、高峰は、やわらかく言った。
「付き合ってるわけじゃないんだよね?」
「……うん」
「じゃあ、誰とデートしても自由だよな」
声の調子は落ち着いているのに、その中に隠れていた真っ直ぐな想いが、有紀の胸に届く。
「……俺のこと、知ってほしい。 俺も、佐伯のこと、もっと知りたい」
強引とは少し違う。
けれど逃げ場のない、まっすぐな気持ちに、有紀は黙り込んだ。
高峰の優しさも、黒瀬との夜も、全部、胸の奥でせめぎ合っていた。
「……考えさせて」
ようやく絞り出したその言葉に、高峰はふっと微笑むように息を吐いた。
「うん。……待ってる」
背中合わせのまま、ふたりはまた静けさに包まれていった。
けれど、その夜、有紀の胸の中でなにかが、確かに動き出していた。


