恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「俺、そろそろ佐伯塾に入門しようかな。“営業の極意”を学ぶために」


「……営業成績トップの人に言われると、ムカつくんですけど?」


「えー? 素直に褒めてるのに〜。あ、もしかして照れてる? かわい」


「は!? かわいくないし!」


「うん、かわいくはない。」


「……ほんとに黙ってて」


思わず睨むと、黒瀬は肩をすくめて「こっわ」と笑った。
いつもの軽口。でも、ふとした瞬間に見せるその柔らかさが、なんだかズルい。



「提出、明後日だったよな? 無理して詰めすぎんなよ」

「あと少しで終わる。そしたら帰るから」

「そ。じゃあ横でエア応援しとくわ。……実物は邪魔みたいだから」

「……正解」


皮肉混じりに言ってやると、黒瀬は「はいはい」と苦笑しながらもその場を離れた。
──けれど、その背中が妙に気になって仕方ない。


いつもは軽くて、ちょっと生意気で。
でも、ふとした瞬間に見せる“気遣い”が、不意打ちみたいに沁みてくる。


意地悪で、掴みどころがない。
そのくせ、ズバズバ言うその物言いに、こっちも気を張らず自然体でいられる。


相変わらず、変な人…。




まさかこの男と、あんな夜を迎えるなんて。
この時の私は、まだ何も知らなかった──。
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