恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜

わかっていたはずなのに

「佐伯さんと、高峰さんって同期なんですよね?」



声をかけられたのは、歓迎会のまっただ中。


部署全体で集まった久しぶりの飲み会で、新人の女の子がぽつりと訊いてきた。



「うん、同期だよ?」


そう返すと、彼女は小首をかしげて微笑む。


「仲良さそうですけど……付き合ってるんですか?」

「えっ?!」



あまりにストレートな質問に、思わず変な声が出てしまった。



「つ、付き合ってないよ!」



慌てて否定すると、隣にいた高峰くんが軽く笑って口を開いた。



「佐伯は……親友、みたいなもんかな」


──親友。



その一言が、胸の奥をチクリと刺した。



(嬉しい……はずなのに)



どうしてだろう。



一線を引かれた気がして、ちょっとだけ苦しかった。



「そうそう。高峰くんは、頼れる同期で、親友で、マブダチってやつ!」



なんとか冗談めかして笑って、グラスを持ち上げる。



一気に流し込んだお酒は、喉を通るとじんわり熱を広げていった。



(……あ、美味しい)



普段ならそこまで飲まないのに。


今日は少しだけ、アルコールにすがりたくなってしまう。


胸のざらつきが、グラスの向こうにかすんでくれそうな気がして。



「佐伯、大丈夫? 顔、赤いけど」


「だいじょうぶ……」


「お水、持ってこようか」


「ううん、大丈夫。ありがと」



高峰くんの優しさが、沁みる。
優しいだけに、沁みすぎて、つらくなる。


──こんなに近くにいるのに、届かない。


まるで、目の前にあるのに決して手が届かない星みたいに思えた。


「……ちょっと、お手洗い行ってくるね」


熱を持った頬と、かすかに滲む視界をごまかすように、席を立つ。


誰にも気づかれないように。
自分の気持ちさえも、今は見つめないように。



──ほんの少しだけ、逃げたくなった。



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