【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
抑えられない衝動
今まで、ずっと高峰くんに恋していたはずなのに。
叶わなくてもそばにいられるだけで幸せだった。
そんなふうに思っていたはずなのに──。
(……なのに、どうして)
今日のデート。
おだやかに、同じものを食べて、ふたりきりの時間を楽しんで。
高峰くんが優しく私の顔を覗き込んで、そっと顔を寄せてきたとき。
私の頭に、浮かんでいたのは──黒瀬くんの顔だった。
あの夜の熱。
強引なようで、どこか切実だった抱きしめ方。
触れられた場所が、まだ自分の一部みたいに熱を持っている気がして、 思い出すだけで胸がざわつく。
言われた言葉の一つ一つを無意識に思い出してしまう。
(わたし、……こんな女だったんだ)
誰のものでもないくせに、あの夜のことを思い出すだけで、また欲しくなってしまう。
彼の手も、声も、体温も──全部。
(黒瀬くんの気持ちなんて、わからないのに)
"行ってくれば?高峰とのデート。
止める権利ないし"
そのどこか突き放すような言葉に、胸の奥がざらついた。
“軽い気持ちじゃない”
あのとき、たしかにそう言ってくれたけれど、
でも、“好き”だとも、“付き合おう”だとも言われていない。
だったら、私はただの、都合のいい女なのかもしれないのに。
それでも、会いたいと思ってしまっている自分が、いちばん怖い。
たぶん、これ以上思い出しているだけじゃ、どうにもならない。
ちゃんと、自分の気持ちを確かめたかった。
彼に、会って──確かめたかった。
スマホを開いて、履歴から黒瀬くんの連絡先を呼び出す。
何度も迷っては戻って、ようやくメッセージを送った。
《今夜、少しだけ会えたりする?》
返事は、すぐに来た。
あっさりとした文面で。
《うち来る?》
(……やっぱり)
“会う”=“そういうこと”なんだろうって、どこかでわかってた。
なのに、私は「うん」って、すぐに返していた。