【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜

抑えられない衝動




今まで、ずっと高峰くんに恋していたはずなのに。


叶わなくてもそばにいられるだけで幸せだった。



そんなふうに思っていたはずなのに──。


(……なのに、どうして)



今日のデート。


おだやかに、同じものを食べて、ふたりきりの時間を楽しんで。



高峰くんが優しく私の顔を覗き込んで、そっと顔を寄せてきたとき。


私の頭に、浮かんでいたのは──黒瀬くんの顔だった。







あの夜の熱。


強引なようで、どこか切実だった抱きしめ方。


触れられた場所が、まだ自分の一部みたいに熱を持っている気がして、
思い出すだけで胸がざわつく。



言われた言葉の一つ一つを無意識に思い出してしまう。



(わたし、……こんな女だったんだ)


誰のものでもないくせに、あの夜のことを思い出すだけで、また欲しくなってしまう。


彼の手も、声も、体温も──全部。


(黒瀬くんの気持ちなんて、わからないのに)


"行ってくれば?高峰とのデート。
止める権利ないし"



そのどこか突き放すような言葉に、胸の奥がざらついた。


“軽い気持ちじゃない”


あのとき、たしかにそう言ってくれたけれど、


でも、“好き”だとも、“付き合おう”だとも言われていない。


だったら、私はただの、都合のいい女なのかもしれないのに。



それでも、会いたいと思ってしまっている自分が、いちばん怖い。


たぶん、これ以上思い出しているだけじゃ、どうにもならない。



ちゃんと、自分の気持ちを確かめたかった。

彼に、会って──確かめたかった。



スマホを開いて、履歴から黒瀬くんの連絡先を呼び出す。



何度も迷っては戻って、ようやくメッセージを送った。




《今夜、少しだけ会えたりする?》


返事は、すぐに来た。


あっさりとした文面で。



《うち来る?》




(……やっぱり)




“会う”=“そういうこと”なんだろうって、どこかでわかってた。




なのに、私は「うん」って、すぐに返していた。



< 54 / 172 >

この作品をシェア

pagetop