【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
タクシーで黒瀬くんの家の最寄り駅に着いたとき、夜風が頬を撫でた。



空気は少し冷たくて、それでも、心の奥にある熱はまったく冷めていなかった。



マンションの前でチャイムを押すと、黒瀬くんがすぐにドアを開けた。



会社のときと違う、ラフなTシャツ姿。


だけどその顔は、少しだけいつもと違う気がした。


「……来たんだ」

「……来ちゃった」

「そっか」


迎え入れられたとき、まず目に飛び込んできたのは、広くて綺麗に整った部屋だった。


シンプルな家具に、洗練されたインテリア。


でも、それなのにどこか“生活感”がなくて──


まるで、モデルルームにでも迷い込んだみたいだった。



「靴、そっち。スリッパある」


そう言って指さされた先にも、整然と並ぶ棚と、無駄のない空間。



(……想像してたより、ずっと“ちゃんとしてる”)


どこかで気を抜いてた自分が、急に恥ずかしくなって、
思わず小さく背筋を伸ばした。


高めの天井。


大きな窓の向こうに見える、夜景のきらめき。



(黒瀬くんって、こんな場所に住んでたんだ……)



その事実だけで、胸が少しだけざわついた。



わたしがソファに腰を下ろすと、彼はキッチンへ向かいながらぽつりと言う。



「麦茶でいい?それとも…酒、飲む?」

「え、えっと……麦茶で」


差し出されたグラスを受け取った瞬間、彼の声が静かに落ちてきた。


「……高峰とのデート、どうだった?」



その言い方は一見何気なくて、でも、空気がほんの少しだけ張ったのが分かった。


胸が、チクリと痛む。


「……な、なんで行ったってわかるの」

「……雰囲気が、いつもと違うから」

「雰囲気?」

「髪巻いてるし。メイクも、服も、……“ちゃんと女の子”してるの、わかる」



その言葉に、ドキッとした。




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