【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「……」
黒瀬くんはグラスをテーブルに置きながら、わたしを見た。
その目は、どこか見透かすようで、見つめられると、喉の奥が詰まるような感覚になった。
「……た、楽しかったよ。それに、すごく優しくて、穏やかな時間だった…」
やっとの思いで言葉を返す。
これは、本当のこと。
嘘じゃない。
けれど声はわずかに震えた。
黒瀬くんは、少しだけ視線を伏せて、静かに頷いた。
「で?」
「え?」
「それで……なんで、俺のとこ来たの?」
真っ直ぐに向けられた声に、思わず目を逸らした。
怖かった。自分の本心を、彼に見透かされるのが。
「……わかんない」
ずるいと分かっていても、それ以上の言葉が出てこなかった。
そのとき──彼の指先が、そっと頬に触れた。
思わずピクリと肩が震える。
火照ったその指が、ゆっくりと首筋へ滑っていく。
「っ……」
そのまま彼が片手をソファについて、わたしの身体は背もたれに沈んでいく。
至近距離で目が合った。
彼の瞳は、まっすぐで、どこか揺れていた。
「……こんなふうに、アイツのために綺麗な格好したくせに」
髪を指ですくわれる。
かすれた声が、真っ直ぐ胸に届いた。
ひとつひとつの仕草に、心臓が早鐘を打つ。
そして彼は、わたしの顎にそっと指を添えて、顔を上げさせる。
「……こんな時間に、男の部屋に来るって。どういう意味か、わかってる?」
吐息が触れるほどの距離。
まるで、試されているみたいだった。
──でも。
わたしは、頷くことしかできなかった。