【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「……今日の高峰くんとのデート中──」



声が震えそうになるのを、必死に抑えながら言葉を続ける。




「楽しくて、穏やかで……嬉しいはずなのに……どうしても、頭をよぎるの」


「……何が?」



黒瀬くんがまっすぐに問いかけてくる。


その瞳は、まるで、"逃がさない"と言ってるみたいに、私を捉えていて。



震えながら答えた。



「……黒瀬くんとの、あの夜のこと。何度も、何度も、頭をよぎるの」




黒瀬くんの瞳がわずかに揺れた。


それが、どんな感情だったのかは、正直わたしには分からなかった。



でも──



たしかに、わたしの言葉が彼の心に触れたことだけは、分かった。


それが、どうしようもなく嬉しかった。




気づけば、手が動いていた。


そっと伸ばした指先が、彼の頬に触れる。


そのぬくもりに触れた瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられる。



わたしの手の中で、彼が小さく息を呑んだ。


──その反応が、怖いくらいに嬉しかった。


そして、気づく。



いま、わたしは理性で動いていない。


“ダメなこと”かもしれないってわかってるのに、
それでも身体の奥からせり上がってくる何かが、彼に触れたいと叫んでいた。



理屈じゃない。


心よりも先に、身体が、彼を求めてた。
  


──まるで、本能がそう言ってるみたいに。


ゆっくりと、わたしから唇を寄せた。



触れた瞬間、彼の瞳がわずかに見開かれる。



でも、それは拒絶じゃなくて、あの夜と同じ──驚きと戸惑い。


唇がそっと離れ、目が合う。



その奥に宿る熱を見た瞬間、もう理性なんてなかった。



「……ねえ、黒瀬くん」


耳元でそっと、名前を呼ぶ。


「……しよ?」


そう囁いた瞬間──彼が、息をのんだ。





「……んっ」


言葉より先に、唇が重なる。


熱くて、迷いのないキス。


それだけで、あの夜の記憶が一気に甦る。


唇の形も、舌の動きも、呼吸の合間に混ざる吐息までも──全部。


「……ほんとに、いいんだな」


かすれた声が耳元に落ちて、わたしは小さく頷いた。


それが、どんな意味を持つか分かっていたのに。


“彼女じゃない”のに、また彼に触れられたいと思ってしまう自分が、怖かった。



でも、それよりも──



彼に、ちゃんと“欲しい”って思われていることが、嬉しかった。




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