【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
彼の指先が、そっと服のボタンに触れる。


ひとつ、またひとつ。



迷いのない手つきで外されていくたびに、空気がじわりと熱を帯びていく。



どこか慣れている動きなのに、そこには一切の乱暴さがなかった。



むしろ──大切なものを、ゆっくりとほどいていくような、慈しみに満ちた仕草。


呼吸も表情も変えないまま、ただ淡々と進めていく彼に、わたしの心臓だけが騒がしくなっていく。



裾に指をかけられ、ふと目が合った。



その瞳に宿る熱──静かで、でも抗えない“男”の本能みたいなものに、背筋がゾクッと震える。


そのまま何も言わずに、静かに──脱がされていく。


背中に回された腕が、ほんのわずかにわたしを引き寄せた。


(……優しい)


けれど、それだけじゃなかった。
その指先には、どこか“わかっててやってる”ような、狡さが宿っている。


言葉を使わないくせに、触れ方ひとつでわたしを翻弄してくる。


スカートのファスナーが下ろされると、ひやりとした空気と彼の熱が混じって、肌が粟立つ。


──必要以上に触れられてないのに、息が詰まりそうになる。



(……ずるい)



優しくて、全部をくれるくせに。


“好き”も、“付き合おう”も、言わない。


"高峰とのデート、どうだった?"


そう問いかけてくるのに、


“もう行くな”も、“俺だけ見てろ”も、言ってくれない。






──なのに。



他の男の隣にいたことを何も言わずに受け入れて、


こうして抱くときだけは、目も、声も、触れ方も、すべてで“俺のもの”だと主張してくる。




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