【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
その唇が、鎖骨にそっと落ちる。


ひんやりした肌に、熱い吐息が触れて──
柔らかく、湿ったキスが降りた。


「……っ」



肩がふるりと揺れる。


思わず、吐息に甘い音が混じってしまう。


胸元から、肩先、肘の内側、脇腹──
まるで、わたしの輪郭をなぞるように、愛おしそうにキスを重ねていく。


(……こんなふうに、触れられたら…)


「……ん、っ……くろせ、くん……」


漏れた声が自分のものだと気づいたときには、もう彼の指先が下着のすぐ近くにあった。


触れるか触れないかの距離を楽しむように、じらすように、指先が這う。



息が乱れて、思わずベッドのシーツをぎゅっと掴む。


(お願い、触れて……でも……)


矛盾した感情がせめぎ合う。


触れられるたび、名前のないこの関係に、名前をつけてくれることを期待してしまう。


「……有紀」


不意に名前を呼ばれた瞬間、すべての思考が止まる。


その声が、あまりに優しくて、深くて、
思わず、涙がこぼれそうになった。


彼の手がわたしの頬に触れて、指先でそっと撫でた。








「ーーーっ」


彼がゆっくりと奥へ入ってくる。
全身が熱に包まれて、呼吸が浅くなる。


「……あっ、ん……」


甘い声が、勝手に喉の奥から漏れていく。


重なる肌、包み込む腕、沈み込むベッド。
彼の体温が、全身にじんわりと染み込んでいく。


触れられるたび、心が焼かれていくみたいだった。



(……もう逃げられない)


ちがう。


(逃げたくない、なんて思ってしまってる)


本当は、もうとっくに堕ちてる。


それでもまだ、彼は何も言わない。
ただ、触れて、溶かして、飲み込んでいく。


(……わたしばっかり、期待してる)



でも、そんな感情すらも彼の手がそっと撫でて、
抱きしめる腕がわたしの奥の奥まで満たしていく。


(……いまだけは、彼のものでいたい)




普段は、軽口ばかりなのに、


今は何も言わずに、ただ優しく触れてくれるその人を、
どうしようもなく愛おしいと思ってしまった。




———すべてが、満たされた後、彼の胸に抱き寄せられて、わたしは、そっと目を閉じた。

 





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