【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
黒瀬尚side|隠すのは得意だから
有紀の呼吸が、落ち着いたリズムを刻みはじめる。
抱き寄せた腕の中、熱の余韻を残したまま、小さく身を預けて眠っている。
その顔を、そっと見つめた。
(……綺麗にしてたな、今日)
白のトップスに、ベージュのスカート。
肌が透けるような質感の服が、彼女の雰囲気に似合いすぎていた。
高峰とのデートのために選んだんだろう。
鏡の前で、あれこれ悩みながら支度していたのが、目に浮かぶ。
──アイツの前でどんな顔してたんだろ。
どんな声で、どんな仕草で、隣にいたんだよ。
湧き上がる感情を、ぐっと喉の奥に押し込めた。
表には出さなかった。
「どうだった?」って聞いたとき、震える声で「楽しかった」と答えた有紀の顔が、まだ頭から離れない。
嘘じゃないって、ちゃんと伝わってきた。
だからこそ、苦しかった。
(……俺以外に向いてたお前を、受け入れたふりすんの、結構しんどい)
嫉妬なんて、格好悪くて見せたくない。
強がりでもなんでもなく、有紀が傷つくようなことはしたくないから。
だから、いつも平気な顔してやり過ごす。
“ほかの男といた”って事実さえ、何も言わずに飲み込む。
感情を隠すのは昔から得意だから。
……けど。
「誰にも渡したくない」と思ってしまうくらい、今の彼女は──綺麗すぎた。
どこか、届かないところに行ってしまいそうで。
気づいたときには、抱き寄せていた。
顔にかかる髪を指先でよけ、そのまま髪を梳く。
触れるたび、思い出す。
あの夜の声も、表情も、熱も──すべてが、焼き付いて離れない。
こんなにも自分を求めてくれることに、正直、浮かれてる。
けれど有紀は、真面目なやつだ。
一度「好き」だと思った人のことを、簡単には忘れられない。
高峰のことが、まだ心に残ってるのも、なんとなくわかる。
だから──焦らない。追い詰めない。
けれど、胸の奥ではずっと、叫び続けてる。
(……もう、いいだろ)
(あんなやつのこと、もう忘れて)
(──はやく、俺だけを好きになれよ)
声にならない言葉が、喉の奥を何度も往復する。