【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜

穏やかな朝と迷子な気持ち


薄明かりの差し込む部屋。


まぶたの裏が赤く染まり、ゆっくりと目を開けると、見慣れない天井が映った。


柔らかなマットレスの沈み込み。


そして、肌の上に感じる、あたたかい腕。


(……わたし、昨日…)


昨夜の記憶が断片的に蘇る。


キス、指先、囁き声──全身に熱を残したまま、思わずシーツをぎゅっと握りしめた。


「起きた?」


背後からの低い声に、心臓が跳ねる。
抱きしめられていたことに気づき、そっと顔を上げる。


「……うん…。おはよう」

「おはよ」


優しい声。


背中に感じる体温。


そっと身を起こそうとシーツをかき寄せた瞬間、胸元にちょっとだけヒリヒリとした感覚が走る。


「っ……」


慌てて視線を落とすと、まばらに赤い痕がついていた。


「っ!? 黒瀬くん……! これ……っ」


問いかけると、背後でイタズラっぽく笑う気配がした。


「……まさか……」

「マーキング」


当然のように言われて、耳が熱くなる。


「意味わかんないし……」

「つけていいって言った」

「言ってないっ」

「寝る前に“ん……いいよ”って言ってた。夢の中の有紀が」

「……夢の中のわたしに確認しないでよ……」



顔がみるみるうちに熱を帯びていく。



「まあ、いいじゃん。今回は、ちゃんと見えない位置にしたし」


「だから、そういう問題じゃなくて……」


「有紀だけが見れる場所に痕があるって、いいなって思って」



耳元で囁かれて、さらに顔が熱くなる。


(……なにそれ)


でも、嫌じゃない自分もいて。


胸元の痕は、まるで「わたしだけのもの」って証みたいで──。



ぼんやりと視線をうつすと、枕元のスマホが目に入る。


そっと手を伸ばそうとした瞬間、黒瀬の指がふわりと覆いかぶさった。


「スマホはあとでみれば?せっかく今日は日曜なんだし」


手のひらの熱がじんわり伝わって、ドキリとする。


「え……でも、ちょっとだけ──」


「ダメ。そういうの、今日は禁止」



そう言って、有無を言わせず引き寄せられた。


ぎゅっと、さっきよりも強く抱きしめられる。


「黒瀬くん……?」

「……まだ眠ぃし、寝よう」

「わたしは眠くないっ」

「俺は眠い…もう少しだけこのままでいさせろ」


その一言に、胸がキュッとなる。


「有紀、抱き心地いいな」

「……抱き枕じゃないんですけど」


小さく抵抗してみせたけれど、力は抜けていた。


(……わたし、これからどうすればいいんだろう)


背中に感じる体温があたたかくて、触れられる素肌が心地よすぎて──


期待してしまう自分を止められない。



答えの出ない気持ちを抱えながら、また彼のぬくもりに身を任せる。





日曜日の静かな朝。


外はまだ静かなのに、胸の内だけが、少し騒がしかった。



< 63 / 172 >

この作品をシェア

pagetop