【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜

その腕に抱きしめられて

会議室の空気は緊張に包まれていた。



有紀は隣にいる高峰と目を合わせ、軽く頷き合う。



「それでは、本プロジェクトのご提案を始めさせていただきます」


ゆっくりと資料を開き、落ち着いた声で説明を進める有紀。



何度も練習した内容だが、心臓はまだ少し速く鼓動していた。



隣でフォローしながらも的確に意見を挟む高峰の存在に安心感を覚え、少しずつ自信が湧いてくる。


クライアントの担当者たちも頷きながらメモを取っており、会議は順調に進んだ。


「佐伯さん、高峰さん、素晴らしい内容ですね。期待しています」



会議が終わり、ほっとした表情のクライアントにそう告げられたとき、有紀は胸の奥がじんわりと温かくなった。








会食の席では、クライアントや上司たちの笑い声が和やかに響いていた。


「佐伯さん!ほら、よかったら一杯どうですか?このお酒、すごくおすすめなんですよ」


気前のいいクライアント担当者が、有紀にグラスを差し出す。


度数の強そうな酒だった。


「ありがとうございます」


断る理由もなく、ふと受け取る。


(まあ、これくらいの量なら大丈夫…だよね?)



そう自分に言い聞かせて口をつけようとしたその瞬間、



すっと高峰が手を伸ばして、有紀のグラスをさらい取った。



「すみません。佐伯、あまりお酒強くないので、僕が代わりにいただきますね。」



驚いた有紀が横を向くと、高峰が目を細めて微笑んでいた。


その表情は優しく、けれど有無を言わせないような真剣さも含んでいた。



「おお、頼もしいな高峰くん。じゃあ、こっちの酒もいってみる?」



気分よく話すクライアントは、さらに強いお酒を次々と高峰に勧めてくる。


どれも度数が強めのものばかりだ。



高峰は何食わぬ顔で受け流していたが、



(こんなに飲んで、大丈夫かな…)


心配そうに彼を見つめる有紀に、


高峰は一瞬、視線を送り、フワッと柔らかい表情で軽く頷いて“気にしなくていい”と伝える。


その何気ない仕草が、妙に胸に響いた。



(……こんなふうに、さりげなく気遣ってくれるの、やさしいな)



隣で変わらぬ表情を浮かべている彼の姿に、有紀は静かに水を口に運んだ。




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