【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
高峰の腕に抱きしめられたまま、有紀は何も言えずにいた。



"'俺じゃ、駄目……?絶対、大事にするから"



耳元に落ちたその言葉が、胸の奥でずっと反響している。


ふいに、彼の腕の力が少しだけ緩んだ。



「……高峰くん?」



呼びかけると、彼はゆっくり目を閉じたまま、小さく息をついた。



「……ごめん……ちょっと、気が抜けた」


「え……?」


「……すげぇ、眠い……」



そう呟いて、有紀の肩にもたれかかってくる。



(え、嘘でしょ……寝ないで、今……!)



「……ちょ、ちょっと、待って。高峰くん?」



軽く揺さぶると、彼は目を開けたものの、どこかぽやっとしていて——



まぶたは重たげで、いつもの理知的な瞳が、どこか子どもみたいに無防備だった。



(やばい…)


(……ちょっと、かわいい、かも…)



「……だめだ、かんぜんに、酔いがまわってきた。ごめん……」


「もう、ほんと……。寝るならベンチじゃなくて、自分のベッドで寝て。ほら、行こう」


「おくってくれるの?」


「……仕方ないでしょ。ここに置いて帰れないし」




ふっと口元がゆるむ。



高峰は少しだけ笑って、「ありがとう」と囁いた。



その笑顔が、いつものスマートな彼じゃなくて、
どこか頼りなくて、心のどこかをくすぐるような弱さが滲んでいた。


 
(こんな顔、知らなかった)



だから、余計に胸が痛くなる。




その想いに応えられない自分が、少しだけ苦しかった。



「……立てる?」


「うん、たぶん」



彼の腕を貸してゆっくり立ち上がらせる。



不安定な足取りの彼を支えながら、タクシーを拾うために通りへ向かった。



風が冷たくなってきた夜。


でも、有紀の頬はまだ熱を持っていた。



さっきの言葉が、ずっと胸の中に残っていて。


(……ごめんね、高峰くん)



そっと心の中で呟いた。




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