【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
高峰の寝息が、静かな部屋に穏やかに響いていた。
ネクタイを外したシャツ。
少し乱れたままの胸元から、規則正しい鼓動がゆっくりと伝わってくる。
毛布をかけて、そっと彼の額から髪を払う。
——ほんと、こんな顔もするんだ。
いつも冷静で、器用で、隙がなくて。
でも今日は違った。
酔って、弱って、抱きしめる腕にしがみつくような切実さがあって。
(……ずるいな)
ほんの少しだけ、胸が痛んだ。
けど、それでも。
心のどこかでは、もう答えは出ていた。
——好きなのは、黒瀬くん。
それは、ちゃんと自分の中でわかってる。
誰に何を言われても揺るがない、って言えるほど強くはないけど、
それでも、ちゃんと惹かれてるって、自覚してる。
だからこそ、余計に。
(……もし、もう少し早く、こんな姿を知っていたら)
タイミングが違えば、気持ちは揺れていたかもしれない。
そんな“かも”を想像する自分がいるのが、少し悔しくて、少し切ない。
「……おやすみ」
そう小さく呟いて立ち上がる。
振り返ったソファの上で、穏やかに眠る高峰の寝顔は、どこか寂しそうにも見えた。
ドアノブに手をかけて、一度だけ深呼吸する。
——たぶん、これはもう恋じゃない。
でも、それでも。
(……あんなふうに、わたしを想ってくれる人に、出会えたことは幸せだった)
扉を静かに閉めて、そっと夜の廊下をあとにした。
肌を撫でる風が、少しだけあたたかく感じた。