【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
テーブルの端には、メモ用紙が一枚伏せられていた。


裏返すと、小さな文字で、きれいにこう綴られていた。

 

『お水、ちゃんと飲んでね。
スーツ、畳んで机においてます。
ゆっくり休んでください。
佐伯』

 

高峰は、思わず苦笑した。



几帳面で、真面目で、優しくて、いつでもちゃんとしてる。



そういうところが──たまらなく好きだった。

 

「……俺じゃ、ダメか」

 

かすれた声が、静かに空間に溶けていく。

 

想いを伝えたその夜に、彼女は優しさだけを残して、何も言わずに帰っていった。

 

(ほんと、ちゃんとしてるよな……)

 

でもその“ちゃんとした”優しさが、今は少しだけ、胸に痛かった。

 

高峰は、まだ少しぬくもりの残るスーツの袖に、そっと手を添えた。




彼女の手が、ここに触れていたかもしれないと思うだけで、
もう一度、きゅっと心が鳴った。

 

——君の手の跡が残る朝。
それが、思っていた以上に、寂しかった。


  
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