【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
カフェを出たあと、ふたりはしばらく無言のまま並んで歩いていた。


沈黙が気まずいわけじゃない。


ただ、それぞれの胸に残る余韻を、静かに整理しているような空気だった。



駅の近くまで来たところで、高峰がふと立ち止まった。


「佐伯」


名前を呼ばれて、有紀も足を止める。


「これから、仕事で何か困ったことがあったら……遠慮しないで、ちゃんと頼って」

「……え?」

「気まずいのは、お互いさまだし。俺だって、変に避けられる方がよっぽど気まずいからさ」


少しだけ冗談めかした口調。でも、目は真剣だった。


「……うん。ありがとう」


有紀の返事に、ふっと柔らかく笑って、彼は続けた。



「……まあでも、黒瀬がもし、佐伯を泣かせたりしたらさ」

「えっ?」

「そのときは——俺、遠慮なく奪いに行くから」



不意に見せたイタズラっぽい笑み。


いつもの落ち着いた雰囲気とは違って、どこか少年みたいな顔だった。



その笑みが、あまりにも眩しくて、やさしくて、



心臓が高鳴った。




「……な、なにそれ……」



驚いたように見上げる有紀に、彼はそのまま続けた。



「冗談、冗談。でも、そんくらいの気持ちではいるよ」


言葉は軽くても、その眼差しは真っ直ぐだった。


好きだった気持ちはもう終わった。





けれど、守りたいという想いは、まだちゃんとここにある。


そんな強さと優しさが、確かに伝わってくる。


「……ほんと…高峰くん、やさしすぎるよ…」


思わず漏れた言葉に、彼はまた少し笑った。


「じゃあ、また会社で」


それだけ言って、背を向けて歩き出す。



その背中は、いつも通り堂々としていて、でもどこか、少しだけ寂しそうだった。


──だけどきっと、これでよかった。



そう思いながら、有紀は静かにその背中を見送った。






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