【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「手、出してるかもよ?」
週末の夜。
黒瀬に連れられて、有紀はビルの上階にある、落ち着いた和モダンの創作ダイニングを訪れていた。
木目と間接照明が心地よく、静かな空気が流れる空間。
仕切られた半個室の席に、ふたり並んで腰を下ろす。
やがて運ばれてきた日本酒に、黒瀬が軽く肘をついてグラスを掲げた。
「じゃ、とりあえずお疲れ。案件、無事完了ってことで」
「うん。ありがと。黒瀬くんもおつかれさま」
コンとグラスを合わせる。
口に含んだ酒は、思ったよりやわらかく、のどをするりと滑り落ちた。
「そういえばさ、黒瀬くんって、酔ったとこ見たことないかも」
「俺、強いからな。……逆にお前すぐ顔に出るよな」
「別に普通だし」
「いやいや。あの日の飲み会で、顔真っ赤だったし、ふらついてただろ」
「……あれは、たまたま」
"あの日"──
ふたりが初めて関係を持ってしまった、あの夜のこと。
無意識に視線を落とすと、すぐに頬が熱くなる。
思い出すのは、酔った勢いなんて言い訳にならないほど真っ直ぐな、あの触れ方。
「……な、なに? 黒瀬くん」
「いや、なんでもない。やっぱり、顔、真っ赤」
くくっと喉を鳴らして笑う黒瀬。
いつものように飄々としているのに、その目だけは、有紀の変化を見逃さないようにじっと見ていた。
(ほんと、ずるい人)
気づいていないふりをしてるのに、 まるで全部わかっているように見透かされてしまう。