【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
そんなタイミングで、黒瀬がふと話題を切り替えた。
「で、高峰とは。仕事、うまくやれてた?」
「え……うん。無事、終わったよ。クライアントも満足してくれてて、今は後処理を他チームが引き継いでる」
「ふーん。……そ」
「……高峰くん、やっぱり仕事できるなって思った。準備も完璧だったし、フォローもうまくて。おかげで、こっちもすごく動きやすかったよ」
「へぇ…」
黒瀬の返事は、やけに短い。
「……会食のときね。高峰くん、クライアントにすすめられたお酒を代わりに飲んでくれてさ。 珍しく、すごい酔っ払ってて、フラフラだったから、家まで送ったんだけど──」
(あ……)
話しながら、少し笑っていた自分に気づく。
無意識に、あの時の酔って、子供みたいになっていた高峰の姿を思い出していた。
そのときだった。
グラスを持つ黒瀬の手が、ふと止まる。
ゆっくりと、有紀の方へ視線を向けた。
「……家、行ったんだ」
「あ、ちが……ほんとに送っただけ。すぐ帰ったし、何も──」
「別に責めてない」
そう言った声は、低く静かだった。
けれど、いつもより感情の波が読めない。
「黒瀬くん……?」
名を呼んでも、彼の表情は変わらない。
どこか冷たくさえ見えて、そのまなざしに、言葉を継げなくなる。
「……お前さ、」
間を置いて、彼が静かに言った。
「警戒心なさすぎ」
「……え?」
「酔った男の家なんて、何されても文句言えないから」
いつもより、淡々とした口調。
でも、その奥には確かに、言いようのない感情が隠れていた。
「た、高峰くんはそんなことしないよ…」
その一言に、黒瀬がフッと笑った。
その笑いは、どこか自嘲気味で、冷たい、ゾクリとするような、微笑だった。
「高峰は、そうでも———」
言いかけて、黒瀬の指先が、そっと有紀の頬に触れた。
驚いて見上げたときには、
その指が滑るように唇の端をなぞり、顎へ添えられていた。
「……俺みたいな奴だったら、手、出してるかもよ?」
「っ……」
低く囁くような声に、心臓が跳ねる。
まるで動きを封じるみたいに、指先が有紀の顎をそっと押し上げた。
唇が触れそうな距離。
呼吸の音すら、相手に聞こえてしまいそうな沈黙の中――
「……なんてな」
黒瀬がふっと笑って、手を離した。
まるでさっきまでの空気をなかったことにするように、あっけなく。
「……」
言葉が出なかった。
有紀はただ、取り残されたみたいに瞬きをする。
(……いまの、本当に冗談?)
聞けないまま、黒瀬は何事もなかったかのようにグラスに口をつけていた。
有紀の胸の奥には、ぬるく残る余韻だけが、静かに広がっていた。
「で、高峰とは。仕事、うまくやれてた?」
「え……うん。無事、終わったよ。クライアントも満足してくれてて、今は後処理を他チームが引き継いでる」
「ふーん。……そ」
「……高峰くん、やっぱり仕事できるなって思った。準備も完璧だったし、フォローもうまくて。おかげで、こっちもすごく動きやすかったよ」
「へぇ…」
黒瀬の返事は、やけに短い。
「……会食のときね。高峰くん、クライアントにすすめられたお酒を代わりに飲んでくれてさ。 珍しく、すごい酔っ払ってて、フラフラだったから、家まで送ったんだけど──」
(あ……)
話しながら、少し笑っていた自分に気づく。
無意識に、あの時の酔って、子供みたいになっていた高峰の姿を思い出していた。
そのときだった。
グラスを持つ黒瀬の手が、ふと止まる。
ゆっくりと、有紀の方へ視線を向けた。
「……家、行ったんだ」
「あ、ちが……ほんとに送っただけ。すぐ帰ったし、何も──」
「別に責めてない」
そう言った声は、低く静かだった。
けれど、いつもより感情の波が読めない。
「黒瀬くん……?」
名を呼んでも、彼の表情は変わらない。
どこか冷たくさえ見えて、そのまなざしに、言葉を継げなくなる。
「……お前さ、」
間を置いて、彼が静かに言った。
「警戒心なさすぎ」
「……え?」
「酔った男の家なんて、何されても文句言えないから」
いつもより、淡々とした口調。
でも、その奥には確かに、言いようのない感情が隠れていた。
「た、高峰くんはそんなことしないよ…」
その一言に、黒瀬がフッと笑った。
その笑いは、どこか自嘲気味で、冷たい、ゾクリとするような、微笑だった。
「高峰は、そうでも———」
言いかけて、黒瀬の指先が、そっと有紀の頬に触れた。
驚いて見上げたときには、
その指が滑るように唇の端をなぞり、顎へ添えられていた。
「……俺みたいな奴だったら、手、出してるかもよ?」
「っ……」
低く囁くような声に、心臓が跳ねる。
まるで動きを封じるみたいに、指先が有紀の顎をそっと押し上げた。
唇が触れそうな距離。
呼吸の音すら、相手に聞こえてしまいそうな沈黙の中――
「……なんてな」
黒瀬がふっと笑って、手を離した。
まるでさっきまでの空気をなかったことにするように、あっけなく。
「……」
言葉が出なかった。
有紀はただ、取り残されたみたいに瞬きをする。
(……いまの、本当に冗談?)
聞けないまま、黒瀬は何事もなかったかのようにグラスに口をつけていた。
有紀の胸の奥には、ぬるく残る余韻だけが、静かに広がっていた。