ハニートラップ
「なんで向かい側?」
ク、と可笑しそうに肩を揺らすも、その目は私から離れない。
さりげなく床に置いた高峰くんの手は、暗に“定位置はここ”と示しているかの様だった。
「……ゔ。」
困った様に眉を下げて口籠る。
目線を上げて、下げて、葛藤。
でも戸惑ったって、最終的には隣に行ってしまうのだ。
「家族は?」
「親は共働きで日中いない。弟は毎日サッカーの練習。」
「弟いたんだ。」
静かな会話。体同士の距離は数センチ。
ほんの先だけ触れてる指に、焦れる。
してることは普段と変わらないのに、場所が変わるだけでこんなに緊張するものなのか。
――コン、コン
カーテンを閉め切った窓から、ガラスを叩く音がした。
確かめなくても、誰が叩いたかは明白。
瞬間、部屋の空気が無くなる。
さっきとは別の種類の緊張が走り、ギギギと音がしそうなほどゆっくりと隣を見る。
高峰くんはもうこっちを見ていた。圧のある鋭い目で。