ハニートラップ
「えっと…。宿題写させろとか、そんな用事で、たまに?」
聞かれてもないのに言い訳する。
怖過ぎて目が合わせられない。
その間にもしつこくノック音は続く。
(俊平め、間が悪すぎる。)
言い訳が続かなくなって言葉に詰まっていると、肩を押されて高峰くんが雪崩れ込んできた。
背中に床の冷たさと、全身を覆う高峰くんの影。
顔横についた手。
「た、……高峰くん?」
私を見下ろす無機質で作り物みたいな顔が、無情さを醸し出している。
張り詰めた緊張感に、胸が大きく凹んで上手く声が出ない。
「いつまで幼馴染のフリしたおままごとやってるの?」
重く沈んだ中低音に、喉が鳴る。
音もなく距離が縮まっていく時――
今度はドアが開く音がした。
「……何やってるの?姉ちゃん。」
聞き馴染みのある幼い声に思考が一時停止。
同じく固まっている高峰くんを押し退けて、勢いよく起き上がった。
大きく開いた部屋の入り口には、サッカーのユニフォームを着た坊ちゃんヘアの私によく似た男の子が立っている。
「咲!?」
――この状況を前に淡々としているこの子は、小学5年生の私の弟だ。
「なんで!?今日、サッカーは!?」
「監督が風邪ひいて中止になった。」
咲は、さっきまで私の上にいた高峰くんにガンを飛ばす。
それから、ずっと鳴りっぱなしの窓の外をチラリと見た。