ハニートラップ
誰かの視線と一緒にそう揶揄する声が聞こえて、胸がキュッと締まる。
何も明言しなくても、私と高峰くんの関係は一目瞭然らしい。
「……えっと、……よかったら仲良くしてね。」
千歳ちゃんは何か言いたそうに口を開いたり閉じたりした後、無難な言葉を選んで前に向き直る。
その後は特に会話もなく、あっという間に放課後になった。
「――千歳!」
教室の入り口で、明るい俊平の声がした。
それに笑顔で応えて千歳ちゃんが駆けていく。
その途中で俊平の目が帰り支度に集中していた私を見つけた。
「おー、珠桜!……じゃーな。」
俊平が笑って手を振ったのに、私が応じないから微妙な顔で手を下ろす。
その頃には千歳ちゃんは俊平の元に辿り着いてて、2人で並んで帰っていった。
俊平は多分、あの日のキスを見てはいない。
次の日も普通に私の部屋の窓を叩いてきたから。
――でも、無視した。
冬休み明けの登校時間もズラして、鉢合わせないようにした。
「最近の珠桜、なんか俺のこと避けてない?」
一度だけ、俊平に言われたことがあった。
「……まぁね。
“お互い”付き合ってる人がいるのに、この距離感はよくないなって思っただけだよ。」
私はまた、嘘を吐いた。
そして俊平もいつも通りすぐに引く。
――そうやって、ただの顔見知りくらいの距離になった。
間を開けて廊下に出ると、高峰くんが派手な女の子達に囲まれている。
この光景にも、もう慣れた。