ハニートラップ
phase:32 心 side.高峰久哉
夕暮れ時の、慣れた帰り道を珠桜と2人で歩いていく。
5月の風は曖昧な温さで、外を歩くにはちょうどいい。
「今日の授業はどうだった」とか、
ぽつぽつと何気ない会話が落ちては消える。
名前を呼ぶと、
「何?高峰くん。」
俺を見上げる笑顔が、夕日を受けて光って見える。
胸がトクンと甘く疼く。
この程度のことにジーンとして、カッコつかなさに眉を顰めた。
不意に、歩く揺れで手と手がぶつかる。
「――……っ、」
反射的に顔を背けて、ポケットに手を突っ込んで避けてしまった。
だから、横顔になって俯いた珠桜の顔が、不安に曇ったのには気付かない。
――少し前から俺はおかしい。
珠桜に触れるのを、時々躊躇ってしまう。
珠桜を手に入れたくて、
手に入れてからも繋ぎ止めたくて、
そのために珠桜に触れ続けてきたのに。
(手も繋げないとか、ガキかよ。)
所在がなくなって、珠桜の体の横で宙ぶらりんになっている手を見つめる。
そこから伸びる細い腕も、肩にかかる長い髪も、ちょっと突き出した唇も俺の心を煽る。
――触れたい。
けれど、触れない。
生まれて初めて経験する躊躇いに、戸惑う。