ハニートラップ
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――side.呼水珠桜
翌日、早朝。
まだ空が青白い、空気の澄んだ河川敷を咲と2人で走っている。
「初めてじゃない?姉ちゃんが朝ラン付き合ってくれるの。」
嬉しさ半分、ちょっと拗ねたみたいな咲が息を弾ませながら言った。
「……たまにはいいかなって。
高校入ってから体鈍ってたと言うか――」
――嘘。
全く眠れなかっただけ。
何かしてないと、どうしても嫌なことを思い出してしまう。
泣いてはない。
だって高峰くんは本気じゃないって、最初からわかってた。
気を抜くと焦点がブレそうになる目を、必死に前に向ける。
「ちょっとペース上げるね。」
全身に絡みつく負の感情を払いたくて、一直線をギアを上げて走り抜ける。
ぼやけた春の空気はどれだけ吸い込んでも、気持ち悪いだけだった。
橋の袂まで走り切って、咲を待つために足を止める。
ふと横を向いて住宅街に続く道路を見た時、早朝でも眩しいブロンド髪を見つけてしまった。