ハニートラップ

ドアが閉まると、急に静かになった気がする。
瞬きをすると痛む目の奥と、鼻が詰まる息苦しさが急に押し寄せてきた。

「5日も寝込むなんて珍しいじゃん。
……変なもんでも食べた?」

あはは、と軽く笑いながらそう言った俊平の視線は合わない。誤魔化しが下手なのは昔からだ。

「……食べてない。」

バツが悪くて、ベッドの上で抱えた膝に顔を埋める。
そんな私を見て、俊平は困ったように口を歪ませた。


「元気出せよ、珠桜。
話なら俺が聞いてやるから。」

俊平の不器用な割にド直球な優しさは、こういう時に痛いくらい刺さる。
何も言うつもりのなかった心が、ちょっとだけ動いた。

「……ちょっと、振られただけ。」

蹲ったままのくぐもった声に、なぜか俊平は意外そうな顔をしていたが――気付かない。

「振られたって……久哉に?
それで“2人して”寝込むって、どんだけ大喧嘩したんだよ。」

「えっ?」

その言葉に思わずバッと顔を上げる。
俊平は驚いて苦笑いしながら、“まずいこと言ったか”と言うような顔をした。
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