ハニートラップ
「珠桜と同じ日から久哉も学校来てないんだよ。
千歳は“私のせいかも”とか言って落ち込んでるし……」
高峰くんも来てないの?どうして?
脳裏にミルクティー色の髪を揺らす後ろ姿が浮かぶ。
原因なんてそれしか思いつかなくて、胸が軋むように痛んだ。
(……考えるの、やめよう。無駄に傷を抉るだけだ。)
気持ちが沈みきる前に、顔を上げて笑顔を繕う。
「週明けにはちゃんと行くから。
千歳ちゃんにも関係ないよって言っといて。」
「そ、か。ならいいけど。
……あんま無理すんなよ?」
「……うん、ありがとう。」
まだ心配そうにしつつ、俊平も笑顔を作って立ち上がる。
開けっ放しだった窓から俊平が帰っていくのを見送って、私ものっそりとベッドから出た。
道路に面した窓のカーテンもゆっくり全開にしてみる。
半分だけ窓を開けると、暑くなってきた春の風が吹き込んだ。
向かいの家の木の緑が、ほんの少し深くなった気がする。
近所の人が犬の散歩をしているのも見えて、何だか不思議な気持ちになった。
「――ちゃんとしよ。」
何をかはわからないけど、呟く。
ほんの少しスッキリした気持ちになった。