ハニートラップ

***

スマホのナビを頼りに、知らない街並みを歩く。

今、どこを歩いているのかはわからない。
けれど着実に目的地へと近づいてはいる。

この道を私を送った後、高峰くんは毎日歩いていたのだろうか?
なんて思うと、緊張しているはずなのにふわふわとした心地になった。


ナビが終わるのと同時に、目の前には“高峰”の表札。

どこにでもある、ごく普通の一軒家。


――急に緊張が強まって、インターホンに向けた人差し指が震える。
人差し指を出したり引っ込めたりを繰り返して、ようやくグッとボタンを押した。

「――はい。」

落ち着いた女性の声。お母さんだろうか?

「あ、あの!私、高峰くんの……同級生で。
お休みしてる間のプリントを届けに……」

「久哉はここ最近ほとんど帰ってきません。
……申し訳ないですけど、それは郵便受けに入れておいてください。」

冷たい声色。その向こう側で、小さい子がはしゃいでいる声がする。

(……帰ってないのに心配じゃないの?)

違和感に胸が冷えて、「はい」と返事するしかできなかった。

プツリとあっさり切れるインターホン。
覚束ない手つきで、口の狭い郵便受けに厚みのある封筒を押し込む。

なんだか言い表し難い複雑な感情になった時。


「珠桜?」


高峰くんの声がした。

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