ハニートラップ
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スマホのナビを頼りに、知らない街並みを歩く。
今、どこを歩いているのかはわからない。
けれど着実に目的地へと近づいてはいる。
この道を私を送った後、高峰くんは毎日歩いていたのだろうか?
なんて思うと、緊張しているはずなのにふわふわとした心地になった。
ナビが終わるのと同時に、目の前には“高峰”の表札。
どこにでもある、ごく普通の一軒家。
――急に緊張が強まって、インターホンに向けた人差し指が震える。
人差し指を出したり引っ込めたりを繰り返して、ようやくグッとボタンを押した。
「――はい。」
落ち着いた女性の声。お母さんだろうか?
「あ、あの!私、高峰くんの……同級生で。
お休みしてる間のプリントを届けに……」
「久哉はここ最近ほとんど帰ってきません。
……申し訳ないですけど、それは郵便受けに入れておいてください。」
冷たい声色。その向こう側で、小さい子がはしゃいでいる声がする。
(……帰ってないのに心配じゃないの?)
違和感に胸が冷えて、「はい」と返事するしかできなかった。
プツリとあっさり切れるインターホン。
覚束ない手つきで、口の狭い郵便受けに厚みのある封筒を押し込む。
なんだか言い表し難い複雑な感情になった時。
「珠桜?」
高峰くんの声がした。