ハニートラップ
phase:41 自棄 side.高峰久哉
目の前に珠桜が現れた。
何にも変わらない、幼さが残る純粋な目。
久しぶりに見た学校の夏服と、汗が張り付く長い髪。
夏の強い日差しを受けた珠桜の横顔は、息をするのを忘れるくらい綺麗だった。
「――珠桜?」
ほぼ無意識に名前を呼ぶと、珠桜は驚いた顔をして固まる。
その顔がゆっくりこっちを向いて、視線が絡む。
「――高峰くん……。」
珠桜の口から俺の名前が溢れた瞬間――
時間が止まったのに、動いた。
珠桜しか見えなくなって、しがらみも全部忘れて、
気付いたらもう走ってた。
一瞬体を引かせた珠桜を逃したくなくて、手を掴んで引き寄せる。
なんの抵抗もなく飛び込んできた華奢な体を、思い切り抱き締めた。
手に吸い付くような体温に、たまらず深く息を吸う。
ほんの少しの汗の匂いと、優しい柔軟剤の匂いが肺を満たして、胸が震えた。
会いたかった。どうしても、どうしても。
このままずっと離したくない。
そう思ったのに。
――珠桜の手が、俺を押し返す。
震えてる割に、しっかりと力が入っていた。