ハニートラップ
「高峰くんが無事でよかったあぁ……!」
俺の首元に顔を埋めて、子どもみたいに泣きじゃくる。
強く俺を抱く腕は、怖かったのだろう、カタカタと震えている。
頭の中はめちゃくちゃで、状況整理が追いつかない。
ふと、手元に転がる珠桜のスマホに目を向けるとその画面は真っ暗だった。
――通話は繋がってなかった。
警察なんてハッタリだ。
理解した瞬間ぞっとして、未だにわんわん泣いている珠桜の肩を押して体を離す。
最悪の事態になっていたかもしれない焦りで、怒鳴らずにいられなかった。
「何やってんだよ!
下手したら取り返しのつかないことになってたんだぞ!?」
涙で顔をぐしゃぐしゃにした珠桜が、しゃくり上げながら俺を見る。
潤んだ目が細くなると、また涙腺が決壊した。
「高峰くんを置き去りになんてできない……!
死んじゃったら……
いなくなったらどうしようって、怖かったんだもん――……!」
その言葉に、心が震える。
――ああ、“珠桜”だ。
そう思ったら堪らなくなって、肩に置いた手を離した側から背に手を回して抱き締める。
飾らない珠桜の匂いと、体温高めの華奢な体。
寄せた頬に触れる涙で濡れた肌は柔らかくて、強く目を閉じれば珠桜でいっぱいになる。
「……ごめん、珠桜。……ごめん……!」
未だ泣き続ける珠桜は何も答えない。
代わりに俺の背にしがみついて、強く強く抱き締め返す。
木の葉に遮られた月明かりと、古びた一本の街灯だけが俺達を照らしている。
間近に聞く珠桜の泣き声が、時間をかけて啜り泣きになって止んでいく。
冷たい地べたに座り込んで、そうやってずっと抱き合った。